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Introduction from Salmonella brain by Salmonella beats

Tracklist
1.Introduction2:43
Lyrics

 先日突然の訃報が伝えられたSalmonella beatsを特異なビートメイカーたらしめていたのは彼の制作プロセスである。彼は体内に無数のサルモネラ菌を住まわせていた。サルモネラ菌は食中毒をもたらす主要な細菌の一つで、当然彼も日常的に下痢や嘔吐を繰り返していた。彼は、便器に放たれた糞便や吐しゃ物を採取する。彼のラボには標準的なビートメイク機材に加え、顕微鏡が置かれていた。採取したサンプルをその顕微鏡で観察すると、そこに見て取れるのはサルモネラ菌が一面に蠢く様である。彼は、そのサルモネラ菌の分布や密度、時間ごとに変化する様子を独自のルーチンにしたがいリズムパターンに変換していた。一聴するとランダムに思える彼のビートには、その実、サルモネラ菌の運動がもたらす奇妙な秩序が通底していたのである。菌の分布は彼がその日食べたものや彼自身の体調、その他気候や天候といったいくつものパラメータによって変化し、その変化が独特なグルーヴを産み出した。
 彼の死が発覚したのは、マンションの近隣住民の通報によってであった。周辺に漏れだした異臭は、死後1ヶ月以上が経過した彼の腐った死体から放たれていた。一時、彼の部屋はバイオハザードの様相を呈し、検死には防護服の着用を強いられた。彼の死体からは、多種多様なサルモネラ菌が検出された。しかも、体中の至る所から。細菌たちが胃や腸の壁を破り、外へと飛び出したのだ。それは脳にまで届いており、脳みその何割かは既に菌に食い荒らされていたらしい。このニュースを聞き、ある可能性が私の頭をよぎった。Salmonella beatsのビートを作っていたのは宿主の彼ではなく、サルモネラ菌それ自体だったのではないか、という可能性がーーー。

Credits
from Salmonella brain, released May 8, 2020
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